ていた。
友仁はどこへ往って自分のことを祈願しようかと思って彼方此方と物色《ぶっしょく》して歩いた。と、ひとところ燈火の点いてない暗い所があった。友仁はここは何を祷る所であろうかと思って、暗い中を透してみた。神像の前の案《つくえ》に富貴発跡司《ふうきはっせきし》と書いた榜《ふだ》があった。友仁はこれこそ自分の尋ねているところだと思って、その前へ跪いた。
「私は四十五になりますが、寒い時には裘《かわごろも》を一枚着、暑い時には葛衣《かたびら》を一枚着、そして、朝と晩には、粥をいっぱいずつ食べて、初めからすこしも物を無駄にはいたしませんが、それでも平生《いつも》困っております、だから冬暖かい年があっても、寒さにふるえ、年が豊かでも飢に苦しんでおります、だから一人の知己もありません、家には無論蓄積がありませんから、妻や児《こども》までが軽蔑します、郷党は郷党で、交際をしてくれません、私は他に訴える所がありません、大神は富貴の案を主《つかさど》っておられますから、お呵《しかり》を顧みずにお願いいたします、どうか私の将来のことをお知らせくださいますとともに、いつがきたならこの困阨《こんやく》を
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