意に旋風が起って、村の百姓屋の物置小屋を捲きあげて春日川の川中へ落した。山から薪を着けて来た一疋の黄牛《あめうし》が、その旋風に捲きあげられて大根畑の中に落とされた。
「これは、どうしてもただごとではない、きっと怖ろしいことの前兆じゃ」
「怖ろしいことじゃ、怖ろしいことじゃ、これは何かの祟りじゃ」
 それから四五日経った。朝から降っていた雨は夕方から風が添うて、怖ろしい暴風雨となり一晩中荒れ狂った。その暴風雨の中に山崩れがして、三軒の農家が埋まったが幸いに死傷はなかった。
「ますます不思議じゃ、どうしても、これは何かの物怪《もののけ》じゃ」
「これは、早く払わないと、このうえ、どんな事があるかも判らない、困ったことになったものじゃ」
「監物殿が、戸波の寺から、不動様を持って来たから、それからじゃ」
「どうも不動様の祟りらしいぞ」
 監物の耳にこうした噂も伝わってきた。彼はこの噂を聞いて冷笑した。
 その翌々晩、某《ある》臣《けらい》の家の酒宴《さかもり》に招かれた監物は、夜遅く一人の若党に提灯を持たして、己《じぶん》の邸の傍まで帰って来たところで、祝い物を入れて往った布呂敷包を忘れたこ
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