めいた。その雷の響が凄じく附近の山やまに木魂を返した。電光もひっきりなしに物凄く燃えた。
 雷雨は一時ばかりも続いてけろりと止んでしまった。監物が便所へ往った時に見ると、空は宵のように一面の星であった。翌日になって村の人は不思議な雷鳴《かみなり》について語りあった。
「雷鳴の最中には、監物殿のお邸のうえのあたりから、火の団《かたまり》が、四方八方に飛び散った」
「何しろ不思議な雷鳴じゃ」
 監物の耳にこんな話が聞えて来たが、彼は別になんとも思わなかった。
 それから三日ばかりすると何処ともなしに不思議な音がしはじめた。それは地の底でもなければ谷の間でもない。またそれかと云って空中でもないが、不思議などうどうと云う譬えば遠い海鳴か、山のむこうの風の音とでも云いそうな音が、その日の朝明け比から始まってその日は終日聞え、夜になってもまだ聞えていたが、何時の間にか止んでしまった。
「一体、あの音は何だろう」
「この間の雷鳴《かみなり》と云い、不思議なことじゃ」
「俺は七十になるが、まだこんな不思議なことに逢ったことはない、奇体なことじゃ、これは何かの兆《しらせ》と思われる」
 その翌日の昼比不
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