っておると、小さなお堂が見える、其処へ逃げて往って見ると、不動様が立っておった。夢はそれで覚めたが、何しろこれまで見たことのない夢であったよ」
 その話はきれぎれに監物の耳に入った。監物は厭な顔をした。彼は体から火の炎々と燃えている奇怪な男に、終夜追いかけられた夢を見ていたのであった。
 監物は己《じぶん》の邸へ帰ると、門の脇に台を作ってその上に積善寺から執って来た不動の木像を据えた。
 監物は藩主の一族で三万石の領地を受けて、藩の家老格に取扱われている者であったが、至って片意地の強いきかぬ気の男であったから、村役人の家の怪異なども別に気に懸けなかったが、それでも心の何処かに一点のしみを残していた。
 その日は初冬の空が晴れて黄色な明るい日が射して、空が碧《あお》あおと晴れており、夕方の空には星が一面に散らばって、静で穏かな一日の終りを示していた。ところで監物が酒の後で飯を喫おうとした比《ころ》から、急に大きな雷鳴が始まった。蒼白い物凄い電光がぎらぎらと雨戸の隙間から眼を眩まして射し込んだ。監物は思わず茶碗を執り落した。続いて大きな雨が激しい音を立てて降って来た。雷は続けざまに鳴りはた
前へ 次へ
全16ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング