やった。赤い紅蓮《ぐれん》のような焔が不動の木像を中心にして炎々と燃えあがって見えた。
「あ」
監物が驚いて声をたてた時には、焔の光は無くなって床の間は元のように微暗い蝋燭の光が弱よわと射していた。監物は眼の勢《せい》であったなと思った。朝になって皆が手水を使って朝飯の膳に向ったところで、臣の一人が隣にいた朋輩の一人に話しかけた。
「昨夜、おかしな夢を見たよ」
「どんな夢じゃ」
「どんな夢と云うて、それは不思議な夢じゃよ、背の高い色の煤黒い、大きな男が、空中を馬に乗って、俺の傍をぐるぐると飛び歩いたが、その男の体からは、一面に真紅な火が燃えていて、物凄かったよ」
「なに、火が燃えていた、俺も火の夢を見たよ、なんでも俺が歩いていると、火の団《かたまり》が、其処からも此処からも、一面に飛んで来るので、俺はその火に触るまいと思うて、彼方によけ、此方によけ、それをよけるに困ったよ」
二人が話をしているのを傍にいた朋輩の一人が聞いて、
「火の話をしておるが、俺も不思議な夢を見たよ、一人で野原を歩いていると、足をやる処が皆火になって、どうしても歩けない、何処か火のない処はないかと思うて、逃げ廻
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