像に眼を留めた。
「どうしても、運慶か湛慶かの作と思いますが」
「うん、そうだな」と、云って何か考えだした監物は「これを持って往こう、これがいい」
 住職は眼を円くして監物の横顔を見た。
「門口が淋しいから、これを据えるといいだろう」と、云って住職の方を見た監物の眼と住職の驚いた眼が衝突《ぶっつ》かった。
「どうだ、和尚さん、持って往ってもいいだろう」
「は、愚僧はどうでもよろしゅうございますが」と、当惑した顔をした。
「本尊の御薬師様を持って往くのじゃない、おつきの不動様じゃ、おつきは他にもいるから、一人位は持って往ってもいいだろう」
 住職は口をもぐもぐさすのみで何も云えなかった。
「もし、面倒なことが起れば、俺が盗んで往ったと云えばいい」
 住職は小さな唸るような声をだした。
「おい、甚六、これを持って往け」と、監物は背後《うしろ》の方を揮《ふ》り返った。
「はい」
 頬髯の生えた熊のような顔をした臣の一人は、ずっと寄って往って、隻手《かたて》を延べて不動の木像の首のあたりを掴んだ。
 住職は小さな声で念仏を始めた。

 監物の一行はその夜|戸波《へは》の村役人の家へ一泊した。村
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