く光った。
女房はまたそっと座敷に帰った。益之助は何か夢を見たのか判らないことをぶつぶつ云っていた。
「もし、もし、夢を見ましたか」
女房が声を掛けると彼はぐるりと枕の向きを変えたが、もう何も云わなかった。
女房は三度目の女の声を聞いてまた出て往った。入り残った月が蒼白く庭にあった。あの女が雨戸に添うて立っていた。
「あれ程、昨夜も、主人はこの比《ごろ》留守であると申しあげておおきしましたに、それでは困ります」
女房は腹立しそうに云った。と、女は顔をあげた。涙が両眼に光って見えた。
「私は小谷の女《むすめ》でございますが、私の家の先祖から伝わった短刀がございましたが、私の家が没落した時、その短刀は御宝蔵の中へ納められました、どうぞ御主人にお願いして、それを執りだして、祭をしてくださいませ、それでないと、私達一家の者が浮ばれません」
女房はわなわなと慄えた。
「その短刀は、御主人が執りださなくとも、祭さえしてくださいますなら、私が執りだします」
女房の眼は暗んで来た。彼女はあっと云って倒れた。女房は寝床の上に仰向けに倒れたのであった。益之助はびっくりして眼を覚して女房を抱き
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