宝蔵の短刀
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)讒言《ざんげん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)玄関|前《さき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)眼を※[#「※」は「目へん+爭」、10−16]《みは》ったが、
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 御宝蔵方になった小松益之助は、韮生の白石から高知の城下へ出て来て与えられた邸へ移った。その邸は元小谷政右衛門と云う穀物方の住んでいた処であったが、その小谷は同輩の嫉妬を受けて讒言《ざんげん》せられ、その罪名は何であったか判らないが、敷物方と云うから何か己《じぶん》の出納していた職務のうえからであろう、とうとう切腹を命ぜられてその家財は皆没収せられ、その跡の邸は足軽などが住むようになっていたが、不思議なことがあると云って入る者も入る者もすぐ出てしまって、その時分は暫く空家になっていたのであった。そして、その邸に沿うた路は小谷横町と云って女や子供は夕方になると通らなかった。
 益之助は豪胆な男であった。年も三十前後、知人から怪しい噂を聞
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