見えた。たしかに夫の隠し女である。女房の眼は嫉妬に輝いた。彼女は耳門戸《くぐり》をつと開けた。女は跫音に驚いたように雨戸を離れた。赤い※[#「※」は「女へん+朱」、13−3]《きれい》な帯の端が女房の眼についた。
「どなたでございます」
女房は憎むべき女の顔を覗き込んだ。細面の眼の水みずした女《むすめ》であった。
「……私は、私は」
女の声は顫えた。
「どなた様でございます、何か私共へ御用でございましょうか」
女房は厚顔《あつかま》しい女を思うさま恥かしめてやろうと思った。
「御主人は、お出でになりましょうか」
女はおずおずと云いだした。
「主人は留守でございますが、御用なら私が承っておきましょう」
「御主人にお目にかかりたいと思うてまいりましたが、お留守なればまたまいります」
「主人に何の御用でございましょう、そして、貴女はどなた様でございます」
「私は、あのなんでございますが、御主人にお目にかかってから、申しあげます」
「そうでございますか、この夜更けに、お壮い御婦人が、よく、まあ、こんな処へ、お出でになりました」
女房は嘲笑った。
「是非お目にかかって、お願い申したいこ
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