から雨になって家の中は生温かかった。寝床へ入ると女房はまた物干竿のことを話しだした。
「なに、狸かなにかだろう」
益之助はもう気にも留めていないと云う風にして、女房の詞《ことば》になま返事をしていた。と、がたりと前夜のような物音がした。益之助は眼を開けた。
「同じ音だな」
こう云って耳を澄ましたがもう何の音もしない。
「また物干竿でございましょうか」と、女房が云った。
「そうだろう、またやったかな」
益之助は渋しぶと身体を起して縁側に出て雨戸を開けた。雨に滲んだうす暗い月の光は、また庭の中ほどに置いてある二十本ばかりの竹を見せた。益之助はまた笑いだした。
朝になって益之助は雨戸を繰りながら庭の方を見た。宵の竹は一本もなかった。竹の不思議はその夜にもまたあった。
四日目の晩が来た。二人はまた寝床へ入って竹の音のするのを心待ちに待っていたが、幾等待っていても何の音もしなかった。
「今晩は、やらないな」
益之助はこんなことを云っていたが何時の間にか眠ってしまった。女房もうとうとして夢とも現《うつつ》とも判らない状態にあった。何処かで女の声がした。
「もし、もし、……もし」
壮
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