たりした。
寄宿舎の庭にはもう付近の者が二三十人も来ていた。寄宿舎の屋根の上に見えていた二軒の家は崖が崩れたために、その一方の家は簷が落ちて、それが寄宿舎の庭へ落ち重なり、その下に建っていた小使室を潰していた。私は家内や子供をそこへ置くなり、和智君を迎えに往っておぶって来た。
寄宿舎の庭には、腰かけや玄関のあがり口に敷いてあったらしい台を出してあった。私は家内や子供たちの立っている傍の台に和智君をかけさし、家へ帰って畳表の古いのでこしらえてある筵を取って来て敷いた。地は脈を打つように後から後からと動いて来た。
和智君はその筵の上に蚕のようになって寝た。私は何かしらその地震よりも大きな危険が来て自分の後に迫っているような気がして、そこにじっとしていられないので、シナ人の下宿の前へと往った。三四人の者が口口に何か叫びながら潰れた家の取付きの所で騒いでいた。何事であろうかと思ってその傍へ寄って往った。
「どうしたのです」
「二人敷かれてますよ」
知合いの八百屋の豊というのがそう言って、潰れた家に圧されて歪《ゆが》んだシナ人の下宿の入口から入って往こうとしたが、扉が締っていて入れないの
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