る音、瓦の落ちて砕ける音、その音の間に泣き叫ぶたくさんの人声が波の打つように聞えた。
「和智君はどうしたろう」
和智君の姿はもう見えなかった。私が和智君のことに気がついた時には、もう地震は小さくなっていた。
「やんだ、やんだ、この隙に戸外へ出よう」
私は末の児を抱き、家内は姉の児の手を曳いて、そそくさと下へとおりた。地の震いはひどく小さくなっていた。家内は土間へおりて姉の児に下駄を履かしたので、私は手にしていた末の児をその背に乗せた。
家内はそのまま出て往った。私は瓦が落ちやしないかと思って出て往く一行の後を見送りながら、土間へおりて下駄を履き、追っかけるように玄関口へと出た。家内は総門の左になったシナ人の下宿が門の内へ倒れかかっている下を通って街路へ出、街路の向う側、藤寺の墓地の垣に添うて立っている五六人の者と一緒になった。私はやや心に余裕が出来た。私は校長の家へと眼をやった。校長の家の屋根は瓦がたくさん剥げ落ちていた。私の眼は今度は右の方へと往った。そこには家主の赤い煉瓦塀があって此方との境をしており、その上に一本の煙突があって平生|店子《たなこ》を督視しているように立ってい
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