の地震をはじめ地震のことを研究している人から、二階にいれば比較的安全だということを聞かされているためであった。私は和智君が倒れかけた襖の傍を裏崖へ向いた窓の方へ往く姿をちらと見たばかりで下へ駆けおりた。
「二階、二階、二階へあがれ」
 家内は一枚障子のはずれた玄関の柱の傍につくばって、左の手をその柱にかけ、右の手で泣き叫ぶ四つになる末の女の児を抱きかかえるようにしていた。八つになる女の児はその後で持ちあがる畳を押えつけようとでもしているようにしてこれも泣いていた。私はいきなり家内の抱きかかえるようにしている末の児に手をかけた。
「大丈夫、大丈夫、二階へあがろう、二階へあがろう」
 私に力をつけられて家内は起きあがった。家はゆらゆらとして足許が定まらなかった。私は末の児の胴から上を持ち、家内はその下を持って、姉の児を衝き飛ばすようにして先に立てて二階へあがった。
「大丈夫、大丈夫」
 家内は倒れかけた襖に掴まろうとして、ひょろひょろと歩いた。二軒長屋になった隣との境の壁がぬき板に沿うてひびわれるのが見えた。私は末の児を抱きかかえたなりに、はらはらとして立っていた。
 戸外の方では物の倒れ
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