娘はどうしてもそれと結婚しようというような気になれなかった。三娘はいった。
「あなたには結婚の機がもう動いているのですが、魔劫《まごう》がまだ消えないのですから、私はこれまでお世話になった恩返しと思って来たのです。ではお別れして、あなたからいただいた金の釵《かんざし》を、あなたからだといって贈りましょう。」
 十一娘は改めて相談してからにしようと思った。三娘は門を出て帰っていった。
 その時孟安仁は多才な秀才として知られていたが、貧乏であるから十八になっても結婚することができなかった。ところで、その日|忽《たちま》ち二人のきれいな女を見たので、帰ってからそのことばかり想《おも》っていた。一更《いっこう》がもう尽きようとしたところで、三娘が門を敲《たた》いて入って来た。火を点《つ》けてみると昼間に見た女であった。孟は喜んで来た故《わけ》を訊いた。三娘はいった。
「私は封《ほう》というものです。范十一娘の伴《つ》れでした。」
 孟はひどく悦んで、精しいことを聞く間もよう待たないで、急に進んで抱きかかえた。三娘はこばんでいった。
「私は毛遂《もうすい》じゃないのです、曹邱《そうきゅう》です。
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