娘と別れた。
「あなたが先へいらっしゃい。私は後からまいりますから。」
夕方になって果して三娘は来た。そしていった。
「私は今|精《くわ》しく探《さぐ》ったのです。あの人は、私と同じ村の孟安仁《もうあんじん》という方ですわ。」
十一娘は孟が貧しいというのを知ったので、いいといわなかった。三娘はいった。
「あなたは、なぜ世間なみのことを考えるのです。この人は長いこと貧乏する人じゃないのですよ。もしこれが間違ったなら、私は眸《ひとみ》をくりぬいて、二度と豪い男の人相はみないのですよ。」
十一娘はいった。
「それじゃどうしたら好いでしょう。」
三娘はいった。
「あなたから何かいただいて、それで約束をするのです。」
十一娘はいった。
「あなたはあまり気が早いじゃありませんか。私にはお父様もお母様もいるじゃありませんか。赦《ゆる》してくれなかったらどうするのです。」
三娘がいった。
「これは面倒なことですから、間違うとできないようになるのです。しかし、あなたの心がしっかりしていらっしゃるなら、生死のきわに立つようなことがあっても、だれもあなたの志を奪うことはできないのです。」
十一
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