て来た。十一娘は牀《ねだい》の上に泣き伏していたが、ちょうど夫を失った人のようであった。
三、四ヵ月して十一娘の侍女は何かのことで東の方の村へいって、夕方帰っていると、三娘が老婆について来るのにいきあった。侍女は喜んでお辞儀をして、三娘のことを聞いた。三娘も心を動かされたようなふうで、十一娘のことを訊いた。侍女は三娘の袂《たもと》を捉《とら》えていった。
「あなたがお帰りになってから、うちのお嬢さんは、あなたのことばかり死ぬほど思いつめていらっしゃるのですよ。」
三娘もいった。
「私も十一娘さんのことを思ってるのですが、うちの方に知られるのが厭なのでね。帰ったならお庭の門を啓《あ》けててくださいまし。私がまいりますから。」
侍女は帰ってそれを十一娘に知らした。十一娘は喜んでその言葉のとおりに庭口の門を啓けさした。三娘はもう庭へ来ていた。二人は顔を合わした。二人はそれからそれと話して寝ようともしなかった。侍女が眠ってしまうと、三娘は十一娘の牀《ねだい》へいって一緒に寝ながら囁《ささや》いた。
「私はあなたが許嫁《いいなずけ》をしていないことを知ってるのですが、あなたのような容貌《き
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