といいだした。十一娘はたってそれを止めた。そこで三娘は帰らなかった。
ある夜、室の外から三娘があたふたと走りこんで来て泣きながらいった。
「私が帰るというものを、帰してくださらないから、こんな侮辱《ぶじょく》を受けたのです。」
十一娘は驚いて訊いた。
「どうしたのです、どんなことがありました。」
三娘はいった。
「今便所にいってると、若い男が横から出て来て、私に悪戯《いたずら》をしようとするのです。逃げるには逃げたのですけど、ほんとに辱《はず》かしいことですわ。」
十一娘は細かにその若い男の容貌を訊いてからあやまった。
「そんな馬鹿なことをする者は、私の兄ですよ。きっとお母様にいいつけて、ひどい目にあわさせますから。」
三娘はどうしても帰るといいだした。十一娘は朝まで待って帰ってくれといった。三娘はいった。
「親類の家は、すぐ目と鼻の間ですから、梯《はしご》をかけて牆《かきね》を越さしてくださればいいのです。」
十一娘は止めてもいないということを知ったので、一人の侍女に垣を踰《こ》えて送らした。半路ばかりもいったところで、三娘は侍女に礼をいって別れていった。侍女はそこで帰っ
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