十一娘はそこで病気になっている故《わけ》を話した。三娘は涙を流したが、そこでいった。
「私の来たことはどうか秘密にしててくださいまし。ものずきがいろいろの評判をたてると困りますから。」
 十一娘は承知した。そこで一緒に十一娘の室へ帰って同じ榻《ねだい》に起臥して心ゆくばかり話しあった。十一娘の病気はやがて癒《なお》ってしまった。二人は約束して姉妹となって、書物も履物も互いに取りかえて着けた。人が来ると三娘は隠れた。二人はそうして五、六月もいた。范祭酒と夫人がそれを訊き知った。ある日二人が棋《ご》を囲んでいると、夫人が不意に入って来て、三娘をじっと見て驚いて、
「ほんとに好いお友達だ。」
 といって、十一娘の方を見て、
「好いお友達ができて、私もお父様もうれしいのですよ。なぜ早くいわなかったの。」
 といった。十一娘はそこで三娘の意のある所を話した。夫人は三娘の方をふりかえっていった。
「あなたのような方がお友達になってくだされて、私達はうれしいのですよ。なぜお隠しになるのです。」
 三娘はぽっと顔を赤くして、帯をいじるのみで何もいえなかった。
 夫人が出ていった後で、三娘は帰りたい
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