籬《とうり》の下にかまえた席によっかかっていた。と、不意に外から垣をかきあがって窺いた者があった。それは三娘であった。三娘は、
「どうか私をおろしてください。」
といった。侍女達はいうなりに垣の下へいって、足がかりになってやった。三娘はひらりとおりて来た。十一娘はひどく喜んで、いきなり起っていって、その手を取って自分の傍《そば》へ坐らした。そして約束に負いて来なかったことを責めて、そのうえ今日はどこから来たかを訊いた。三娘はいった。
「私のほんとうの家は、ここからよっぽど遠いのですが、時どき親類の家へ遊びに来るものですから、いつか近村といったのは、その親類の家のことなのですの。あなたとお別れして、私もあがりたくってあがりたくって仕方がなかったのですが、貧乏人がお身分のある方と交際するのですから、まだあがらないうちからはじるのですわ。それに下女下男から軽蔑せられるのがおそろしいのですから、ようあがらなかったのです。いま、ちょうど牆《かきね》の外を通ってますと、女の方の声が聞えるものですから、あなたなら好いがと思って、あがってみたのですの。お目にかかれてこんなうれしいことはないのです。」
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