た。三娘はいった。
「あなたのお宅は立派なお宅ですし、私とはすこしも関係がありませんし、皆さんから何かいわれはしないでしょうか。」
十一娘は無理に勧めて伴れていこうとした。
「そんなことありませんわ、ぜひまいりましょう。」
三娘は、
「この次にいたしましょう。」
といっていこうとしなかった。十一娘はそこで別れて帰ることにして、金の釵《かんざし》をとって三娘にやった。三娘も髻《もとどり》の上にさした緑の簪《かんざし》をぬいて返しをした。
十一娘はそれから家へ帰ったが、三娘のことを思うとたえられなかった。そこで三娘のくれた簪を出してみた。それは金でもなければ玉でもなかった。家の人に見せてもだれもそれを知らなかった。十一娘はひどく不思議に思いながら、毎日三娘の来るのを待っていたが、来ないので悲しみのあまりに病気になった。両親はその故《わけ》を訊いて、人をやって近村を訪ねさしたが、だれも知った者はなかった。
九月九日の重陽《ちょうよう》の日になった。十一娘は痩《や》せてささえることもできないような体になっていた。両親は侍女にいいつけて強いて扶《たす》けて庭を見せにいかした。十一娘は東
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