かったので、女の方を見つめた。女はかすかに笑って、
「あなたは范十一娘さんではありませんか。」
 といった。十一娘は、
「はい。」
 といって返事をした。すると女はいった。
「長いこと、あなたのお名前はうかがっておりましたが、ほんとに人のいったことは、虚じゃありませんでしたわ。」
 十一娘は訊《き》いた。
「あなたはどちらさまでしょう。」
 女はいった。
「私、封《ふう》という家の三ばん目の女ですの。すぐ隣村ですの。」
 二人は手をとりあってうれしそうに話したが、その言葉は温《おだ》やかでしとやかであった。二人はそこでひどく愛しあって、はなれることができないようになった。十一娘《じゅういちじょう》は封三娘《ほうさんじょう》が独《ひと》りで来ているのに気がついて、
「なぜお伴《つ》れがありませんの。」
 といって訊いた。三娘はいった。
「両親が早く亡くなって、家には老媼《ばあや》一人しかいないものですから、来ることができないのです。」
 十一娘はもう帰ろうとした。三娘はその顔をじっと見つめて泣きだしそうにした。十一娘はぼうっとして気が遠くなった。とうとう十一娘は三娘を家へ伴れていこうとし
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