そうな顔をした。夫人が訊いた。十一娘は黙ってしまって何もいわなかったが、ただ目に涙を浮べていた。十一娘はその後で人をやって夫人にいわした。
「私は孟生でなければ、死んでも結婚しません。」
 范祭酒はそれを聞いてますます怒って、縉紳の家へ結婚を許したが、そのうえに十一娘と孟とが関係があると疑ったので、吉日を撰《えら》んで急いで結婚の式をあげようとした。十一娘は忿《いか》って食事をしないで、毎日寝ていたが、婿が迎えに来る前晩になって、不意に起きて、鏡を見て化粧をした。夫人はひそかに喜んでいた。侍女がかけて来ていった。
「お嬢さんがたいへんです。」
 十一娘は縊死《いし》していた。一家の者は驚き悲しんだが、もうおっつかなかった。三日してとうとう葬った。
 孟は隣の媼《ばあ》さんから范家の返事を聞いて、憤り恨んで気絶しそうになったが、思いきることができないので、もう一度よりをもどしたいと思って女の容子《ようす》を探っていると、女にはもう婿《むこ》がきまったということが知れて来た。孟は忿《いか》りで胸の中が焼けるようになって、何の考えも浮ばなかった。そして間もなく十一娘が自殺して葬式をしたという
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