ができたので、今度は北山の方へ往くと云って、己《じぶん》の室《へや》で鉛を熔かしてそれで十匁弾を鋳ていた。火鉢に掛けた小さな鋳鍋の中にどろどろになった鉛を、粘土で造えた型へ鋳込んでいた。
備後は弾を十個位造えるつもりであった。彼は鋳鍋の柄を持って鋳込んだ弾は幾個《いくつ》あるだろうと思って、台の上にのせた鉛の鋳込んだ型に眼をやった。鋳込んだ型は九個《ここのつ》であった。
「九つ、も一つじゃ」
備後は鋳鍋をまた火の上にやりながら見るともなしに台の向うの方へ眼をやった。赤毛の肥った飼猫が前肢を立ててじっと此方を見ていた。
「ほう、見ているな」
備後はこう云って微笑しながら鋳鍋の鉛は出来たようであるから、それをまた一つの型の穴に鋳込んだ。
「これで、十だ、十あれば、大丈夫、これで、よし、よし」
備後は鋳鍋を台の端へのせて初めに鋳込んだ型の泥を落しはじめた。泥の中からは白い十匁弾が光って出て来た。この時備後の方を見ていた猫は、そっと何処へか往ってしまったが、備後はそれを知らなかった。備後は三つ目の弾を型の中から執りだした時、未だ鋳鍋の底にすこし鉛の残っていたことを思いだした。で、ついで
前へ
次へ
全7ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング