、第3水準1−89−89]は軍士を率いて洞の中へ突進した。四足を床に縛られた大きな白猿が、敵と見て起きあがろうとしたが、練絹の中に麻縄があるので、引切る事ができないで、眼を電光のように怒らして悶掻《もが》いた。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]の軍士は競いかかって刀を当てたが、巌鉄のようで刃が通らない。そこで※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]は美女の言った事を思いだしてその臍下を刺した。鬼神は、
「これは天が我を滅したものだ、汝らの力の及ぶところでない」
と言い、また、
「汝が妻は既に姙んでいるから、その子を殺さないで置け、必ず賢王に遇うて家を起す」
と言い畢《おわ》って死んだ。
※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]はそこで軍士に命じて、鬼神の掠奪してきた財宝を収め、美女の数を検べてみると美女は三十人いた。美女達は鬼神の事を細ごまと話して、
「鬼神に奪われてきた女の中で、色の衰えた者は、いつの間にかいなくなった、鬼神は毎朝、手を洗い、帽子を被り、白い衣の上にやはり白い羅《うすもの》の衣被《うわぎ》を著て、古文字のような物を書いた木簡《もっかん》を読んだ、読み
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