ると、そこから刃《やいば》が通るらしい」
と言い、また傍の巨巌を指して、
「これは鬼神の食物を斂《おさ》める処である、酒を花の下に置き、犬をそこここの樹下に繋いでから、時刻のくるまでここに隠れているがよい」
と教えた。
※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]はその言葉に従い、酒を置き、犬を繋いで巌の陰に隠れて待っていると、申《さる》の刻になって白練団《びゃくれんだん》のような者がどこからともなく飛んできて、洞門の中へ入った。そして、暫くすると鬚のある綺麗な男が白絹の衣服を著、片手に杖を曳き、美女達を伴《つ》れて出てきたが、犬を見つけると、片っ端から躍りかかって引裂いて旨そうに喫《く》った。犬を喫ってしまうと、美女達は花の下に置いてある酒を取りあげて我さきにと勧めた。男は歓んでそれを飲んでいたが、六七升ばかりも飲むと非常に酔ってきた。美女達はその手を取って洞《ほらあな》の中へ入ったが、歓び笑う声が一頻《ひとしき》り聞えてきた。※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]は巌の陰で合図のあるのを待っていた。と、美女の一人が出てきて、
「早く早く」
と言って招いた。※[#「糸+乞」
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