ら体に隙を見せなかった。
勝行等は隙を待っていた。双方の間は殺気立っていた。次郎兵衛は静に大刀を抜いて前へさしだした。
「これは、進士太郎国光の作でござる、これを抜き合すと、方々が幾人かかって来ても手には覚えん」
と云って、にっと笑って鞘に収めた。そして、また脇差を抜いて、それをまた前へだした。
「これは奥州月山と云う名工の鍛えた吹毛でござる、これを抜き合すと、方々の五人や十人は胴斬りにできるのじゃ」
次郎兵衛はこう云って、またその脇差を鞘に収めた。そして、まだ二三寸鯉口が残っておるところで、塩見野弥惣が、
「御意」と云って斬りかけた。
「なんの、うぬが」
次郎兵衛は抜き打ちに塩見野が乳の下へ斬り付けて二段に胴斬りにし、返す刀で野中源兵衛を斬り倒した。そして玄関から庭前《にわさき》へ飛びおりた。勝行と北代の二人は、次郎兵衛を追って往って庭前で斬り結んだ。
北代四郎右衛門が庭木の根に躓いてよろよろとした。次郎兵衛の刀はその腰のつがいに当った。四郎右衛門は倒れた。
「甥の讐《かたき》」
市右衛門は畳かけて斬り込んだ。しかし次郎兵衛の手許へは寄れなかった。市右衛門は思いついたこと
前へ
次へ
全23ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング