麓にあった。家の前には一条の路が通じていた。その路をやって来た五人の姿は、もう次郎兵衛の眼に注《つ》いた。五人が玄関口ヘかかると次郎兵衛が両刀を差して出て来た。
「ただいま承るに、左京之進殿には、お腹を召されたとのことでござるが、左京之進殿は元親公の甥婿でござらぬか、この勝賀野がおったなら、やみやみと腹を切らせまいに、返す返すも残念なことをしたものじゃ、其処許達は、定めてこの次郎兵衛を打ちに参ったでござろうが、まあまあ、遠い処を参られたから、粥でもふるまい申そうか」
 次郎兵衛はこう云って嘲笑った。
「いや元親公の仰には、左京之進殿ことは、悪逆があったから切腹さしたが、勝賀野次郎兵衛にお構いなく、所領安堵である、ただ左京之進殿の城後《しろあと》を受取り来れとのことでござる」
 勝行はこう云って次郎兵衛に安心さして、その隙に乗じようとした。
「元親公がそんなことを云われたか、凡そ君辱めらるれば臣死す、禄を食《は》む者が、主を殺させて安閑と生きながらえることができると思われるか、元親公は無下《なげ》に愚かな人じゃ、飴で小供を釣るような申されようじゃ」
 次郎兵衛は肩を揺って笑った。笑いなが
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