一人であった。親興はその時、大高坂《おおだかさ》城の北に当る尾戸に邸宅を普請し始めたところであった。
勝賀野次郎兵衛には、土居肥前勝行をやった。勝行は検使と云うよりは殺戮使と云う方が当っていた。勝賀野次郎兵衛は親実の家来で蓮池にいた。
「勝賀野は音に聞えた男じゃ、卒爾なふるまいして仕損ずるな」
元親は勝行に注意した。勝行は城を出て西のほうへ向った。
「土居殿、何処へ往かれる」
勝行へ声をかけてから二人の侍が後から来た。塩見野弥惣、野中源兵衛の二人で勝行とは親しい仲であった。
「蓮池の城といっしょに、勝賀野の首を執りに往くところじゃ」
勝行がその理由を話すと、二人もいっしょに往ってやろうと云いだした。
「元親公の云いつけじゃから、御身達を伴れて往くことはならん」
勝行は承知しなかった。其処へまた二人の侍が来た。北代市右衛門と甥の北代四郎右衛門の二人であった。
「和主《おぬし》達は何をしておるのじゃ」
市右衛門が云った。市右衛門叔父甥は、勝行の大事の使のことを聞くと、これもいっしょに往こうと云いだした。勝行はしかたなしに四人の加勢を伴れて往った。
次郎兵衛の家は蓮池城の東南の
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