僧侶がその前に立って読経をはじめた。この祈祷のことを聞き知った城下の人びとは、見物にとその寺へ集まって来た。
 読経は厳粛に行われた。集まって来た見物人は、この読経に耳を傾けて静まっていた。と、台の上に並べた八つの位牌が動きだした。親実の位牌が一番に台の上から飛びおりるように落ちると、後の位牌も順々にしたへ落ちた。僧侶は恐れて読経の声が止んでしまった。親実の位牌を前にして、位牌は列を作って本堂から出て往った。僧侶も見物も眼が眩んだようになって、それをはっきりと見る者はなかった。位牌は何時の間にか消えてしまった。そして、空の方で数人の笑う声が聞えた。
 位牌の不思議が元親の耳に入ると、元親も親実はじめ八人の者を殺したことを後悔しだした。彼は国中の寺々へ向けて、二日三夜の大供養をさした。寺々では領主の命を受けて、それぞれ供養をはじめたが、読経していると、僧侶の首が皆右の方へ捻向けられたようになって動かなくなった。
 元親はこのことを聞くと家来を己《じぶん》の前へ集めて、八人の怨霊を静める方法を評議した。
 傍に使われていた近侍の少年が、急に発狂したようになって云った。
「我は左京之進殿の使
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