刀を抜いて空払に払いあげた。新三郎の体は田の中へ落ちた。
新三郎は田の中で起ちあがった。夜が明けかけて星の疎《まばら》になった空が眼についた。彼は刀を拾って田の畔へあがり小さな路へ出た。
一挺の駕籠がむこうの方から来た。新三郎はこんな容《さま》を人に見られてはと思ったが、一条路で他に避ける処もないので、田の中へ隻足《かたあし》を入れるようにして、駕籠をやり過ごそうとした。駕寵の垂は巻いてあった。駕籠の中には吉良左京之進の姿があった。
「五月氏か、御健勝で」
新三郎はその声を耳にすると共に、ばったり倒れて死んでしまった。
八人御先の噂は日に日に昂まって来た。その噂は元親の耳にも入った。元親は嘲笑った。
「臆病者共が何を云う、そんなばか気たことがあってたまるものか」
恐ろしい火の玉は城の中にも飛びだした。その火の玉に当って発狂する者もあった、病気になる者もあった。元親の傍にいた若侍の一人も、その火の玉に往き逢って病気になり、とうとう死んでしまった。元親もそれには驚いて、城下の寺へ云いつけて祈祷をさした。
寺ではその云いつけどおり、八人の位牌を拵えて本堂の台の上に置き、数十人の
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