来た」
 と言って叱った。張はその前にひれ伏して、
「どうか私の生命が延びるように、おとりはからいを願います」
「いかん、俺は一度、漢朝の権臣の生命を延ばそうとおもって、奏請したために、ここへ謫居《たくきょ》の身となっておる、帰れ」
 張はここぞと思って一生懸命になって頼んでいると、一人の使がやってきて書簡《てがみ》を道士に渡した。道士はそれを開いて読んだが、読んでしまうと笑いだした。
「華山の神から頼んできたな、しかたがない、奏請してみよう」
 道士は筆を執って何か書いてそれを函に入れ、香を焚いて拝んでいると、その函がひらひら空へあがって往った。そして、暫くするとはじめの函が落ちてきて道士の前へ止まった。函の上には、徹という字が書いてあった。道士はまた香を焚いて拝んだ後に函の蓋を開けた。それには、張の生命を五年延ばしてやるという意味の文書が入っていた。
「五年の生命が延びた、これからは身を謹み、心を清くせんければならんぞ」
 張は喜んで礼を言って道士の前を辞し、一足歩いて振り返って見ると、もう庵もなければ道士もいなかった。そして、十里あまりも歩いたところで、かの黄いろな服を着た男がひ
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