ょっこり前へきて立った。
「あなたのお陰で、五年間生命が延びました、どんなお礼でもいたします、言ってください」
黄いろな服の男は、
「私は何もいらない、華山の神へ約束の金を献上して、私を門番にしたいと言ってもらいたい、そうすると、私の苦痛もなくなる、私はもと宣城《せんじょう》の生れで、脚夫《きゃくふ》をしていた関係で、死んでからも死人の籍を運送することを言いつかっている」
と言い言い歩いて往って、そこの柏《かしわ》の木の傍で消えてしまった。
張は華陰の旅館へ帰ったが、華山の神へ献上する金が惜しくなった。彼は奴僕の一人に言った。
「千の金を献上する約束をしてきたが、千ありゃ、十晩の費用が出る、土偶像《でくのぼう》にくれてやるは惜しいじゃないか」
奴僕はてんでそんなことは信用していなかった。
「そうでございますとも」
翌日張は華陰を出発して、十日ばかりの後に偃師《えんし》という処まで往った。そして、旅館に着いて休息していると、闥《こもん》を開けて入ってきた者があった。それは黄いろな服を着たかの脚夫であった。
「あなたは嘘|吐《つ》きだ、もうなんと思っても、助けてやることができない
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