して、ますます七郎に心を傾けて、翌日御馳走をかまえて招待したが、遠慮して来なかった。そこで武は七郎の家へいって坐りこんで酒の催促をした。七郎は白分で酒のしたくをして、鹿の肉の乾したのを肴に出し、心をこめてもてなした。
翌日になって武は七郎に来てもらって御馳走の返しをしようとした。そこで七郎が来たが、二人の意気がしっくりあっていて二人ともひどく懽《よろこ》びあった。武[#「武」は底本では「式」]は七郎に金を贈ろうとした。七郎はおしのけて手にしなかったが武が虎の皮を売ってもらいたいといって口実をこしらえたので、はじめて取った。
七郎は自分の家へ帰って蓄えてある虎の皮を見たが、もらった金をつぐなえるだけの皮がなさそうであるから、再び猟をして後にそれを送ろうと思って、二日の間山へいったが猟《りょう》がなかった。ちょうどその時女房が病気になった。七郎は看病をしなくてはならないので仕事にいく遑《ひま》がなかった。十日あまりして女房の体が急に変って死んでしまった。七郎はそこで葬式のしたくをしたので、武からもらっていた金はなくなってしまった。武は自分で七郎の家へ見舞に来たが、その礼儀がひどく手あつ
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