かった。
 葬式が終ると七郎は弓を負って山の中へ入った。ますます佳い虎の皮を獲《え》て武に報いなくてはならないと思った。しかし、どうしても虎を獲ることができなかった。武は探ってこの事情を知ったので、そこで七郎に急いでやらないようにといった。そして是非一度来てくれといったが、七郎は負債《かり》のあるのを遺憾として、どうしても来なかった。武はそこで先ず旧《ふる》くから蓄えてある皮をくれといって、早く七郎に来てもらおうとした。七郎は蓄えてある革を検《しら》べてみると、それは虫が喫《く》って敗れ、毛も尽《ことごと》く脱《ぬ》けていた。七郎はがっかりすると共に武から金をもらったことをひどく後悔した。武はそれを知って七郎の家に来て、心から慰め、入って敗れた革を見て、
「これで佳い。僕のほしいのは、もともと毛でないから。」
 といって、その毛のない革を抽《ぬ》いて、七郎を伴れて一緒にいこうとした。七郎は聞かなかった。そこで武は独《ひと》りで帰っていった。
 七郎はどうしても毛のない革位では武に報いるに足りないと思ったので、食物を持って山へ入り、三晩四晩|明《あ》かしているうちにやっと一|疋《ぴき》の
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