武は大声をあげて叫びかつ罵ったが、邑宰は何も聞かないふうで相手にならなかった。
 武はとうとう叔父の尸を舁《かつ》いで[#「舁《かつ》いで」は底本では「舁《かつ》いて」]帰って来たが、哀みと憤りで心が乱れてそれに対する謀《はかりごと》がまとまらなかった。武はそこで七郎から謀を得ようと思ったが、七郎はさらに見舞にも来なかった。武はこれまで七郎を待つに薄くはなかったが、なんでにわかに知らない人のようにするだろうと思った。しかし、林児を殺してくれた人のことを思うと、どうしても七郎より他にないので、七郎と謀《はか》らなければならないと思って、そこで人をその家へやった。七郎の家は戸が締ってひっそりとなっていた。隣の人に訊いても解らなかった。
 ある日、御史某の弟は村役所へ来て邑宰と相談していた。それは朝で、薪と水とを樵人《そま》が持って来る時刻であった。不意に一人の樵人が水を担《かつ》いで来たが、その担いだ物を置くなり刀を抽《ぬ》いて某に飛びかかった。某はあわてて手で刀をつかもうとした。刀はそれで腕を切り落した。樵人の次の刀は始めて某の首を斬った。邑宰は驚いて逃げていった。樵人は臂《ひじ》
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