七は主家が断絶して家中の者がちりぢりになった時、それに交《まじ》って姿をかくしているところであった。与茂七は火のようになった。
「これお袖、このざまはなんだ、男ほしさのいたずらか。あきれて物が云われねえ」
お袖は口惜《くや》しそうに歯をくいしばった。
「そりゃ、あんまりむごい与茂七さん。おまえこそ、現在わたしと云う女房がありながら、こんな処へ来なさるとは」
お袖には後暗いことはなかった。二人の心はすぐ解けあった。
間もなく与茂七とお袖は宅悦の家から『藪の内《やぶのうち》』と書いた提燈《ちょうちん》を借りて出て往った。其の時直助が出て二人の後を見送って閃《きっ》となった。
「目あては提燈だ」
三
乞食《こじき》に化けて観音裏の田圃道《たんぼみち》を歩いていた庄三郎は、佐藤与茂七に逢って衣服を取りかえた。与茂七は宅悦の家で借りて来た提燈も庄三郎にやって、
「非人に提燈はいらぬもの、これも貴殿へ」
と云って往ってしまった。庄三郎は己《じぶん》の風采《なり》を提燈の燈《ひ》で見て、
「こんな容《なり》をしてて、仲間の乞食に見つかっては大変じゃ」
庄三郎はそれから富
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