南北の東海道四谷怪談
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伊藤喜兵衛《いとうきへえ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)其の時|屏風《びょうぶ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]
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       一

 伊藤喜兵衛《いとうきへえ》は孫娘のお梅《うめ》を伴《つ》れて、浅草《あさくさ》観音の額堂《がくどう》の傍《そば》を歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のお槇《まき》と医師坊主《いしゃぼうず》の尾扇《びせん》が加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。
「どうじゃ、お梅、今日はだいぶ気あいがよさそうなが、それでも、あまり歩いてはよろしくない、駕籠《かご》なと申しつけようか」
「いえ、いえ、わたしは、やっぱりこれがよろしゅうございます」
 お梅は己《じぶん》の家の隣に住んでいる民谷伊右衛門《たみやいえもん》と云う浪人に思いを寄せて病気になっているところであった。其の伊右衛門は同じ家中《か
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