思って殺したのは、もと己《じぶん》の仕えていた主人の息子であった。直助は己のあさましい心を悔《く》いながら死んでいった。
一一
伊右衛門は秋山長兵衛を伴につれて鷹狩に往っていた。二人は彼方此方《あっちこっち》と小鳥を追っているうちに、鷹がそれたので、それを追って往った。
空には月が出て路《みち》ぶちには蛍が飛んでいた。其処に唐茄子《とうなす》を軒に這《は》わした家があって、栗丸太の枝折門《しおりもん》の口には七夕《たなばた》の短冊竹をたててあった。
長兵衛がそれと見て中を覗《のぞ》きに往った。中には縁側付の亭《ちん》座敷があって、夏なりの振袖を著《き》た※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な娘が傍においた明るい行燈の燈で糸車を廻していた。長兵衛は伊右衛門にそれを知らせた。
「美しい女が糸車を廻しております」
「なに美しい女」
「さようでござります」
「それでは其の方が案内して、鷹のことを問うてみぬか」
そこで長兵衛が中へ入って往った。
「鷹がそれて行方が判らなくなったが、もしか此方《こちら》へ」
鷹は行燈の上にとまっていた。娘は莞《にっ》とし
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