思って屏風をはねのけた。屏風の中にはお袖が血みどろになっていた。其のとたんに月が射した。二人は呆《あき》れて眼を見あわした。
「これはどうした」
「これは」
お袖はやっと顔をあげた。
「与茂七さん、どうか、ゆるしておくれ。それから、直助さんは、養父と姉の讐を討った後で、どうか、小さい時に別れた兄《あに》さんを尋ねて、此のわけを話してくだされ」
お袖には幼い時に別れた一人の兄があった。お袖は苦しそうに懐から一通の書置と、臍《ほぞ》の緒《お》の書きつけを出して直助に渡した。直助は其の臍の緒の書きつけをじっと見た。それには、『元宮三太夫《もとみやさんだゆう》娘|袖《そで》』としてあった。直助は見て仰天した。直助は傍にあった与茂七の刀を取ったかと思うと、いきなりお袖の首を打ちおとした。与茂七は驚いた。
「何故《なぜ》に、そんなことを」
直助はどしりと其処へ坐るなり、其の刀を己《じぶん》の腹に突きたてた。
「与茂七殿、聞いてくだされ」
お袖が探していた幼い時別れた兄は、直助であった。直助は臍の緒の書きつけによって、先刻祝言の盃を交したお袖が妹であったことを知り、其のうえ、観音裏で与茂七と
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