さま》は、お岩を殺したな」
「めっそうな、たった今まで、両手も口も結《ゆ》わえられておりましたに」
「それでも、それそれ、両手が動くじゃないか。さあ、云え、なんでお岩を殺した」
「そう云わっしゃるなら、わたしがお岩さまを殺した下手人《げしゅにん》になりますから、どうか彼のソウセイキを」
「べらぼうめ、彼《あ》の唐薬は、さっき質屋へ渡したのだ」
「それでは、あれは、彼の質屋に」
 小平が走って往こうとする後《うしろ》から、伊右衛門は刀を脱いて斬りつけた。
「お岩の仇《かたき》」
 其処へ秋山長兵衛と関口官蔵が入って来た。長兵衛は眼をみはった。「民谷|氏《うじ》、ぜんたいこれは」
 伊右衛門は小平をずたずたに斬りきざんでいた。
「不義者を成敗したのだ」
 伊右衛門はそれから長兵衛と官蔵に頼んで、お岩と小平の死骸を神田川《かんだがわ》へ投げこました。

       七

 伊右衛門は屏風を開けてお梅の傍へ往こうとした。伊右衛門は其の夜遅くなって喜兵衛がお梅を伴れて来たので、祝言の盃《さかずき》をしたところであった。
「どうじゃ、お梅」
 伊右衛門はお梅の枕元へ座って、恥かしそうに俯向《うつ
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