が、薬を取りかえしたことだし、それに、昨日立てかえた金をかえせば、生命《いのち》だけは助けてやるが、其のかわり汝《てめえ》の指を、一本一本折るからそう思え」
 小平は身をふるわせた。
「旦那さま、お慈悲でござります、そればかりは、どうぞ」
 長兵衛がついと出た。
「やかましい」と怒鳴りつけて、それから皆《みんな》に、「さあ、猿轡《さるぐつわ》をはめさっしゃい」
 官蔵、伴助、宅悦の三人は、長兵衛に促されて手拭で小平に猿轡をはめ、まず鬢《びん》の毛を脱いた。其の時門口へお梅の乳母のお槇が、中間に酒樽《さかだる》と重詰《じゅうづめ》を持たして来た。
「お頼み申しましょう」
 伊右衛門はそれと見て、三人に云いつけて小平を壁厨《おしいれ》へ投げこませ、そしらぬ顔をしてお槇を迎えた。
「さあ、どうか、これへこれへ。御近所におりながら、何時《いつ》も御疎遠つかまつります、御主人にはおかわりなく」
「ありがとうござります、主人喜兵衛はじめ、後家《ごけ》弓とも、よろしく申しました。承わりますれば、御内室お岩さまが、お産がありましたとやら、お麁末《そまつ》でござりますが」
 お槇はそこで贈物を前へ出した
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