。伊右衛門はうやうやしかった。
「これは、これは、いつもながら御丁寧に、痛みいります、器物《いれもの》は此方《こちら》よりお返しいたします」
「かしこまりました」それから懐中《かいちゅう》から小《ちい》さな黄《きい》ろな紙で包んだ物を出して、「これは、てまえ隠居の家伝でござりまして、血の道の妙薬でござります、どうかお岩さまへ」
伊右衛門はそれを取って戴いた。
「これはお心づけ忝《かたじけ》のう存ずる、それでは早速」と云って伴助を見て、「これ、てめえ、白湯《さゆ》をしかけろ」
其の時屏風の中で嬰児《あかんぼ》の泣く声がした。お槇が耳をたてた。
「おお、やや[#「やや」に傍点]さま、男の子でござりまするか」
伊右衛門は頷いた。
「さようでござる」
「それはお芽出とうござります、それでは」
お槇の一行が帰って往くと、長兵衛と官蔵がもう樽の口を開け、重詰を出して酒のしたくにかかった。伊右衛門はにんまりした。
「はて、せわしない手あいだのう」
五
伊右衛門は喜兵衛の家から帰って来た。伊右衛門は喜兵衛の家へ礼に往ったところで、たくさんの金を眼の前へ積まれて、一家の者から
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