牆の上から落ちてきた。それは鞦韆の索であった。老婆は無言で世高を促した。
 世高はその索に手をやってちょっと引き嘗《こころ》みてから攀《のぼ》って往った。世高の体はやがて牆の上になったがすぐ見えなくなった。老婆はそれを見ると世高が首尾よく劉家へ入れたと思ったので、裏門を閉めて引込んでしまった。
 世高は牆の上からそこに枝を張っている老樹の枝に移って、そろそろと下の方へおりて往った。おりてゆくうちにその枝が折れてしまった。世高はそのまま下へ墜ちたのであった。
 鞦韆の索を投げて世高の来るのを待っていた秀英は、月の光に世高が牆の上にあがってきて、それから老樹の枝に移ったのを見て喜んだが、喜ぶまもなく世高が墜ちたので、気を顛倒さして走って往った。
 世高は棲雲石《せいうんせき》の上に倒れていた。秀英はそれに手をかけた。
「もし、もし、お怪我をなされたのではありませんか」
 世高は返事もしなければ動きもしなかった。耳を立てても呼吸もしなかった。秀英は慌てて世高の体を彼方此方と撫でたが、体は依然として動かなかった。
 暗い谷底につき落されたようになった秀英の頭に、世高の屍から起る両親の譴責が浮ん
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