んに、佳い花簪児を選んでいただきましたが、今日はそれよりも佳い品が見つかりましたから、持ってあがりました」
 老婆はそう言って夫人の前をつくろって、秀英のいる楼上《にかい》へ往った。楼上には秀英が榻《ねだい》の上に横になっていた。老婆はずかずかとその傍へ往った。
「お嬢さん、昨日は失礼いたしました」
 老婆は袖の中からかの詩を出して秀英の手に置いた。秀英はそれに眼をやった。
「佳い詩だわ、ね、え」
「どうか、それに次韻《じいん》してくださいまし、あの方がそれを待っておりますから」
 秀英は詩から眼を放してにっと笑った。
「私にはできないのだもの」
「そんなことをおっしゃらずに、願います」
「そう」
 秀英は傍の箱のなかから自分で繍《ぬい》をした汗巾を出してきて、それに筆を染めた。
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英雄自ら是れ風雲の客
児女の蛾眉《がび》敢て仙を認めんや
若し武陵|何処《いずれのところ》と問わば
桃花流水門前に到《いた》れ
[#ここで字下げ終わり]
 老婆はその詩を見て世高を秀英の許へやってもいいと思った。老婆は秀英にその意を含めた。しかし、秀英にはどうして来る人を迎えていいか判
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