うれしかった。狸は庄造に馴《な》れて庄造が帰れというまで何時《いつ》まででも遊んで往くようになった。
 某夜《あるよ》狸がいつものように庄造の傍で遊んでいるうちに戸外は大雪になった。庄造は積った雪を見て狸を帰すのが可哀そうになった。で、狸の頭を撫でながら、
「おい、たぬ公、今夜は雪だから泊って往け」
 と云うと狸は尻尾を掉って喜んだ。其の夜狸は庄造の床の中へ入って寝たが、それから狸は庄造の許で泊って往くようになった。
 庄造が狸を可愛がっていることは、やがて村中の評判になった。村人は時どき夜の明け方などに、庄造の家から出て往く狸の姿を見ることがあったが、互にいましめあって危害を加えなかった。そして、村の子供達にも、
「先生様の狸に悪戯《いたずら》しちゃいかんぞ」
 と云い云いした。ところで、其の庄造が病気になった。初めはちょっとした風邪《かぜ》であったが、それがこうじて重態に陥った。村人達はかわりがわり庄造の病気を見舞ったが、其の都度庄造の枕許《まくらもと》に坐っている狸の殊勝な姿を見た。庄造は自分の病気が重って永くないことを悟ったので、某日其の狸に云った。
「お前とも永らくの間、仲よ
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング