狸と俳人
田中貢太郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)安永《あんえい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》
−−
安永《あんえい》年間のことであった。伊勢大廟《いせたいびょう》の内宮領《ないぐうりょう》から外宮領《げくうりょう》に至る裏道に、柿で名のある蓮台寺《れんだいじ》と云う村があるが、其の村に澤田庄造《さわだしょうぞう》という人が住んでいた。
庄造は又の名を永世《ながよ》と云い、号を鹿鳴《ろくめい》と云って和歌をよくし俳句をよくした。殊に俳句の方では其の比《ころ》なかなか有名で、其の道の人びとの間では、一風変ったところのある俳人として知られていた。
庄造は煩雑《はんざつ》なことが嫌いなので、妻も嫁《めと》らず時どき訪れて来る俳友の他には、これと云って親しく交わる人もなく、一人一室に籠居《ろうきょ》して句作をするのを何よりの楽しみにしていた。
某年《あるとし》の晩秋の夕《ゆうべ》のことであった。いつものように渋茶を啜《すす》りながら句作に耽《ふけ》っていた庄造が、ふと見ると窓の障子へ怪しい物の影が映っていた。
次へ
全5ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング