庄造は不審に思って衝《つ》と窓の障子に手をかけたが、何人《たれ》か人だったら気はずかしい思いをするだろうと思ったので、其のまま庭前《にわさき》へ廻って窓の外を見た。窓の外には一|疋《ぴき》の古狸が蹲《うずく》まっていたが、狸は庄造の姿を見ても別に逃げようともしないのみか、劫《かえ》ってうれしそうに尻尾を掉《ふ》るのであった。庄造は興《きょう》あることに思って、家《うち》の中から食物を持って来て投げてやった。と、狸は旨《うま》そうにそれを食ってから往《い》ってしまった。
其の翌日《あくるひ》の夕方も庄造が書見をしていると、又窓の外へ狸が来て蹲まった。庄造は又食物を持って出て、狸の頭を撫でたりしたが、狸はちっとも恐れる風がなかった。
其の狸は其の翌晩もやって来た。庄造は待ちかねていて座敷へ呼び入れた。狸は初めの間は躊躇している様子であったが、やがて尻尾を掉りながらあがって来た。そして、庄造が書見をしている傍に坐って一人で遊んでいたが、暫らくすると淋《さび》しそうに帰って往った。
それから狸は毎晩のようにやって来た。庄造は淋しい一人|生活《ぐらし》の自分に良い友達が出来たような気がして
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