れに夜になって人の家の庭前《にわさき》などヘ来て角力なんか執るものではない。それに芒や萩の中にあんな少年が入っておる筈のものでない。どうしてもこの少年は怪しい少年であると思った。
「どうしても人間の子供でない」
二人の少年は組んずほぐれつやっていたが、力が合っているのか何方《どっち》も倒れない。
「何者だ」
光長は思わず声を出した。と、二人の少年はびっくりしたように両方に離れるとともに、痩せた方は芒の繁みの方へ往き、肥ったのは萩の繁みの方へ往ったが、そのまま二人とも見えなくなった。
「何人《たれ》か来よ、何人か来よ」
光長が声を出して呼ぶと、しもての縁側に跫音がして、釣り刀をした背の高い侍の一人がのそのそと来てひざまずいた。
「怪しい小供が二人、萩と芒の中へ入った、引っ捕えて来い」
侍はそのまま立って庭へおりて往った。光長は起きあがっていた。
侍は萩と芒の繁りの中へもう己《じぶん》の体を置いて捜していたが、暫くして帰って来た。
「何者も見当りませんが、如何いたしましょう」
光長はやはり今の少年は人間ではないと思った。
「見えねばそれで好い、捨てておけ」
光長はその翌晩も
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