があって、彼《あ》の小供に用心を見せに来ているかも判らないと思った。
 光長はじっと少年の容子を見ていた。と、物の気配がして今度は萩の繁みの中から黒いまん円い影が見えて来た。光長はいよいよ大人が這いながら出て来たところだと思った。もし盗人であったら一矢に射殺してやろうと思った。彼は座敷に立てかけてある弓のことをすぐ考えた。考えながらその黒いまん円い影に注意した。それは背のひくい横に肥った少年であった。彼は痩せた少年を追って来るように、ひょこひょこと歩いて来たが、痩せた少年の傍へ往くなり、いきなりそれに組みかかって往った。すると痩せた少年はそれを組ませずに突き倒そうとした。
 光長は盗人の用心のことを忘れてしまって、不思議な少年の容《さま》を見はじめた。円く肥った少年と痩せた少年は、いっしょになったり離れたりして、相手を突き倒そうとする容《ふう》であった。光長はやっとその少年達が角力を執っていると云うことを知った。しかし、草の繁った中から這い出て来て角力を執る少年の素性がどうしても合点が往かなかった。庭の前《さき》は築地になって用心を厳しくしているので、少年達が入って来られる隙はない。そ
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