縁側へ出て一人で酒を飲んでいた。酒を飲みながら時々前夜の怪しい少年のことを考えていた。そして、また酒も厭になったので横に寝そべって庭の方を見ていた。その晩も涼しい風が吹いて虫の声が静に聞えていた。
 光長は睡くなったのでうつらうつらしていたが、何か物の気配がしたので眼を開けてみた。庭では痩せた少年と肥った少年が、昨夜と同じように角力を執っていた。
 光長はそれを見るなり、そっと体を起して両手を立て、音のしないように座敷の中へ入って往った。
 右の方の壁の傍には、張った弓をかけ、下へ立てた胡※[#「※」は「竹」かんむりの下に「録」の旧字、第3水準1−89−79、74−2]《やなぐい》に十本ばかりの矢が入れてあった。光長はその弓をおろすなり、二本の矢を執って縁側の簾の陰へ往って、一本の矢を口にくわえ、一本の矢を弓に仕かけながら庭の方を覗いた。
 庭では二人の少年が未だ組んだり離れたりして一生懸命になっていた。光長はその二人がいっしょになったところを見るといきなり矢を放った。矢は二人を合せて縫うたように見えたが、そのまま二人の姿は見えなくなった。光長は二本目の矢を弓に仕かけながら声を立てた。
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